土と木と便り
2025年9月号
こちらもまだ日差しが強い日もありますが、夜は虫の声が賑やかです。道路脇ではコスモスが満開で9月の風に揺れています。
珈琲はとてもシンプルな飲み物です。生豆を焼いて粉にして、お湯をかけ濾過するだけで出来上がりますので、誰にでも簡単に淹れられます。豆は浅く焼いたものほど酸味が強いものになり、深く焼いたものほど酸味が無くなり、苦み、甘み、コクが出てきます。煎りたての豆ほど風味が良く、時間が経った豆は次第に品質が劣化していきます。たったこれだけのことを知っておくだけで珈琲をより美味しく淹れて楽しむことが出来るのです。
戦後の日本社会で珈琲文化が形成されていく中で、珈琲の味は生豆の生産国に紐づけられたイメージから語られるようになってきましたが、同じ生産国でも品種、ロット、農園、精製、焙煎度合いで全く別物の珈琲になってしまうので、その考え方にはあまり意味がありません。「ブラジルは苦めだ」「モカは酸味が強い」といった話しを聞いたことがあるかもしれませんが、ブラジルでも浅く煎れば酸味が強めのコーヒーになりますし、モカでも深く煎れば酸味がなく苦めの珈琲になるのです。
また、抽出器具によって味が変わるといった話しも聞いたことがあるかもしれませんが、これについてもそれほど重要なことではありません。そもそも抽出器具は本来、その地域で飲用されている水の硬度によって選択されるべきものです。全国的に軟水環境にある日本においては、ペーパーやネルのフィルターを使用して淹れるドリップ(透過法)こそが最も美味しく珈琲を淹れられる方法です。そして、どのような器具を使おうとも、やはりその珈琲豆自体が煎りたて、挽きたて、淹れたてであることこそが、美味しさの決め手となります。
日本の珈琲業界は長年に渡り、珈琲の産地や器具について上記のような誤った認識を前提とした情報を発信してきましたが、この傾向は相変わらず改められることはありません。現在では、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)がその流れを主導しています。おそらく、消費者に珈琲豆や器具に購買意欲を沸かせるためのイメージ作りとして、そのようなことが行われてきたのだと思います。
また、そうした販売方法を積極的に取り入れようと、中小の自家焙煎店の多くも業界的な流れに追随しています。焙煎後の品質について、明らかに問題のある珈琲をまるで広告的な宣伝によっておしゃれに見せながら高値で販売しようとする者の出現が後を絶えませんが、先ほども述べた通り、「どんな珈琲も煎りたてが一番美味しい」ということと、ご自身の好みの焙煎度合いが何なのかを理解していれば、ついつい口車に乗せられてあまり美味しくない珈琲豆を買ってしまい、なかなか消費しきれずに後悔するということはありません。
当店はこれからも引き続き、いつでも煎りたての珈琲豆を皆様にお届けいたします。珈琲を淹れて飲む時間をより良いものにしていただくために、なるべく一番良い状態のものを楽しんでいただければと思っています。