土と木と便り
2025年10月号
珈琲を淹れて飲むということを始めたのは今から10年前のことでした。それまではインスタントコーヒーか缶コーヒーしか飲んだことがありませんでしたが、その時期に知り合ったパートナーが珈琲道具一式を持っていて、淹れたての珈琲の美味しさを初めて知りました。同時に、珈琲を淹れてゆっくり楽しむことでとても豊かなひと時を味わえると知り、それからすっかり珈琲にのめり込み、より美味しい珈琲を求め、気になった自家焙煎店の豆をネットで取り寄せるなどして日々楽しんでいました。
その頃はちょうど色んなものを手作りすることにもハマっていたので、その気になれば自宅でも珈琲豆の焙煎が出来ると知り、自分でもやってみたいと思っていたところ、当時は今よりも肉体的にハードな酪農の仕事をしていたのでパートナーからたしなめられ、焙煎にだけは手を出さないようにと止められていました。それでも、どうしても好奇心を抑えられず、パートナーの制止を振り切り、手始めに小さな焙煎用のアルミ製手鍋を購入し、ガスコンロの上で夜な夜な鍋を振って焙煎を始めてみました。
今でも覚えているのは一番最初に焙煎した生豆が東ティモール産の生豆でした。この東ティモールが現在の当店の定番豆になることなど、この時は全く想像もしていませんでした。当然のことながら最初は上手く豆が焼けず焼けムラや焦げだらけの酷いものでしたが、その後は猛特訓を重ねて、どうにか手鍋でもちゃんとした焙煎が出来るようになりました。そうして自分で焙煎した豆で淹れて飲む珈琲は、自家焙煎店から買ってきた珈琲に全く引けを取らないものでした。それは決して自分の腕前が優れていたからではなく、珈琲豆は煎りたてであればあるほど美味しいということをこの時に身を持って知り、この体験が土と木とを開くための一つのきっかけになりました。
珈琲の歴史を振り返ると、大昔は人々が街で生豆を買ってきて、家の台所でその日に使う分だけの豆を焼き、いつも煎りたての珈琲を飲んでいたようです。おそらく、当時の人々はそれが何よりも美味しい珈琲だと知っていたからだと思います。その後は産業革命や分業化に伴って、人々は何かと時間に追われるようになり、あらかじめ焙煎された珈琲豆を買うようになっていったのです。
現代は生豆の品種改良や精製技術の向上で風味の良い珈琲が次々に誕生し、パッケージの性能も向上して焙煎豆の品質保持も随分と良くなりましたが、それでもやはり珈琲は煎りたてなものほど美味しく、なるべく早めに飲んだ方が良いということには変わりはありません。焙煎後に何か月もの時間が経ってしまった豆はどんなに密封していたとしても風味が失われ、豆の一粒一粒に油分が含まれていますので必ず酸化していきます。もっと単純に考えると、例えばお米やお肉が炊きたて・焼きたてが一番美味しいのと同じで、珈琲も煎りたてが一番美味しいということなのです。
当店の目指す珈琲は生活の珈琲です。生活の珈琲とはまさに、大昔の人々が生活の中でいつも飲んでいたものと同じ煎りたての珈琲のことです。生活の中から生み出されたものは生活に寄り添うためのものです。当店はこれからも皆様の生活に寄り添えるように、いつでも煎りたての珈琲豆をお届けいたします。珈琲を淹れて飲む時間をより良いものにしていただくために、なるべく一番良い状態のものを楽しんでいただければと思っています。