土と木と便り
2026年1月号
当店は開業以来、手回し焙煎機を使用して珈琲豆を焙煎しています。手回し焙煎機はとてもシンプルな構造で、直径20cmほどの鉄製の筒にハンドルが付いていて、それをガスコンロの上に載せてひたすら回転させ、筒の中に投入した生豆をじっくり焼いていくというものです。こういったシンプルなものほど壊れにくくて確実であり、なおかつ手仕事によって作り出せるものを大切にしていきたいという思いがあるので、当店ではこの焙煎方法にこだわり続けています。
珈琲業界では今や焙煎機にもパソコンを繋げて、モニターに映し出される温度グラフや過去のデータを見ながら焙煎をするのが主流の時代となりました。珈琲豆をまるで工業製品のように、効率よく大量に均一な焙煎を行っていく上では、最新のテクノロジーを駆使していくのは至極当然のことかもしれませんが、個人的にはそのような焙煎方法には今まで一度も魅力を感じたことがありません。もちろん、珈琲が美味しく焼けるのであればどんな方法の焙煎でも良いとも思っていますが…。
しかし、焙煎機の精度がそのように高度化しているにもかかわらず、業界全体で珈琲が美味しくなったという話は全く聞いたことがありません。いくら焙煎機が立派なものになっても、相変わらず製造原価率を抑えるために生豆を極力浅く焼いて酸味の強いものばかり製造し、大量生産ゆえに流通までに時間が掛かってしまい、煎りたてとは程遠い酸化したものばかりが出回ってしまうという、珈琲を不味くさせる負の構造自体が昔から何も変わっていないからだと思います。これはまさに生産性、効率性、収益性を何よりも重視する資本主義経済の考え方を当てはめてしまうと、そっくりそのまま品質の低下を招いてしまう典型的な例だと言えます。
ただ、それでもテクノロジーを何よりも礼賛する人たちも少なからず存在し、そうした人たちの一部からは手回し焙煎機については「時代遅れ」「不安定な焙煎しかできない」「豆がこげ臭くなる」など散々な言われようですが、実際に手回し焙煎機で焼いている当店の珈琲豆を定期的にご注文されている皆様にとっては、そのような批判が全く当てはまらないものだと思っていただけるのではないでしょうか。
当店では手回し焙煎機でも毎回安定的な焙煎ができるように、生豆の種類ごとにテスト焙煎を何度も繰り返し、焙煎中の豆の色、爆ぜ音、煙の出方の変化などを自分の目と耳で細かく観察しているので、テクノロジーに頼らずとも常に安定的な焙煎を行うことが可能なのです。本来、誰にでも備わっている人間の持つ力、手仕事のなせる技を駆使していくことこそが自分にとっての仕事であり、そうした方法で焙煎した珈琲豆をいつも皆様にお届けできることを何よりも誇りに思っています。
そして、コーヒーの生豆はあくまでも農産物であり、全てが均一であるという前提の工業製品ではありません。生産されたロットごとに、精製された一粒ごとに全く違うものが作り出されていますので、そういったものを私たちが焙煎するごとに、常に全く同じものを作り出すことは本来不可能なのです。過去の焙煎データといくら比較しても、生豆自体がいつも全く違うものなので、それはほとんど無意味なことなのです。豆屋にできることは、今そこにある生豆をしっかりと焼いて明確な基準での焙煎度合いにすること、そしてより良い品質のためにいつも煎りたてのものを提供すること、この2点だけなのです。
当店は今年もこの2点に重点を置き、誰が淹れても、誰が飲んでも、美味しいと思っていただける珈琲を焙煎していきますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。