土と木と便り
2026年2月号
『食卓に珈琲の匂い流れ』 茨木のり子
食卓に珈琲の匂い流れ
ふとつぶやいたひとりごと
あら 映画の台詞だったかしら
なにかの一行だったかしら
それとも私のからだの奥底から立ちのぼった溜息でしたか
豆から挽きたてのキリマンジャロ
今さらながらにふりかえる
米も煙草も配給の
住まいは農家の納屋の二階
下では鶏がさわいでいた
さながら難民のようだった新婚時代
インスタントのネスカフェを飲んでいたのはいつだったか
みんな貧しくて
それなのに
シンポジウムだサークルだと沸きたっていた
やっと珈琲らしい珈琲がのめる時代
一滴一滴したたり落ちる液体の香り
静かな
日曜日の朝
食卓に珈琲の匂い流れ……
とつぶやいてみたい人々は
世界中で
さらにさらに増え続ける
今回は、生活の中の珈琲の香りが漂ってくるような一編の詩をご紹介しました。
当店の珈琲は特別な珈琲ではなく、飲んでくださった方々の暮らしの珈琲としてその生活に寄り添いたいとずっと思ってきました。生活の中でいつも飲むものだからこそ、いつも品質の良いものを。飲む人の気持ちにそっと寄り添えるような珈琲をこれからもお届けいたします。